本を紹介し、近代文学・現代文学・海外文学の感想を書きます。雑感も書きます。

海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

村上龍『イン ザ・ミソスープ』

村上龍の作品の中で、過去に「コインロッカー・ベイビーズ」と「限りなく透明に近いブルー」を読んだことがあった。突拍子の無さが現実と絡み合う心地よさ。グロテスクな表現と衝撃的なセックスが印象深かった。現実感の無いぶっ飛んだセックスを読みたい気分だったので、本作品を手に取った。

 

ぶっ飛んだセックスを楽しみに読んだ僕は、殴られた。怖かった。人は理屈の分からないものに対して恐怖を感じる。まだ見えてない部分、この蓋を外した中には何が詰まっているのだろう。どんなことが起きるのだろう。途中、ホラー小説を読む気分で読んでいた。恐怖の対象がオバケとか幽霊とかいう非現実ではなく、歌舞伎町にセックスをしに来た外国人なんだから、恐怖の方向性は大きく違っていたが。

 

読み終わって全てを理解できる構成は、さながらサスペンスであり、推理小説であった。しかし、情報量の多さ、伝えたいことの奥深さは計り知れない。

 

提起される問題は現代的だ。個性、自分らしさ。右倣えをするばかりで、君は本当に君と言えるのだろうか。そう問いかけている気がする。

 

しかし、問いかけるだけではない。悪い点に目が行きがちな私たちに、良い点を教えてくれる。良心的であり、それ故、一切の判断は私たちに委ねられている。

 

この本は、私を右倣えから左に向かせたい訳では無いと思う。立ち止まって。そう言っている気がする。右や左を見る前に、その地点にいることを確認する。ここはどんな所なのか、理解する。そういうことを促していると思う。

 

立ち止まる。コンパスは北を赤く照らす。

 

 

イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)

イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)