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海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロ氏は2017年にノーベル賞を受賞した。原題が「Never let me go」で、なんとなく面白そうだから入門として買った。ノーベル賞受賞者だけある、そう感じる作品だった。

 

この作品は是非とも前知識、ネタバレなしで読んで欲しい。映画の予告編、本の裏表紙、あらすじなどの一切を読まずに、書店やアマゾンでズバッと買って、一気に読み進めることをお勧めする。

 

以下の感想もネタバレは無いけれど、内容が少し含まれているので読後に読んだ方がいいかもしれない。

 

 

 

読み始めてすぐは、わけがわからなかった。単調で平凡だった。カズオ・イシグロ氏は物語のヒントを少しずつ与えていく手法が得意らしい。まんまと嵌められた。ヒントが与えられる度に物語が繋がっていく快感。次々に世界が開けていく。スポットライトがあちらこちらに光を与え、物語をくっきりさせる。

 

光が当たって見えたものは、暗闇だった。世界が開ける度に暗闇の存在は光で強調される。暗闇は動かず、ただ存在する。暗闇は光よりも強く、暗闇を放つ。スポットライトに照らされた暗闇が照らされるごとに大きくなるのを、ただ見つめることしかできない。

 

 

この作品の面白さは、2つある。

 

1つ目は、「物語の全貌が解き明かされていく楽しさ」

 

2つ目は、「吐きそうになるほどの嫌悪感」

 

全貌が明かされることを期待しながらページを捲ると、ジワジワと嫌悪感が足元から胸、喉にこみ上げる。嫌悪感は次第に満たされ、口から溢れる。物語が明かされるたび、楽しみながら嘔吐し続けるのだ。

 

 

素晴らしい点の1つに、心情表現の緻密さがある。

 

物語は基本的に回想である。回想中には、口喧嘩、内輪揉め、グループの不和が山ほど描かれている。相手が何を考えているか窺ってみたり、相手の気持ちを勝手に想像して病んでみたり、相手によって態度を変えてみたり、心の中と違うことを言ってみたり。発言の際の心の動きが、回想中の自分と現在の俯瞰できる自分との二視点で描かれている。あのときああしておけばうまくいったかも、いや、これがあったからうまくいかなかったかも。なんて、人間臭さを感じさせる、緻密な描写が多く描かれている。

 

人間の生き方、生き様を大いに考えさせられる。私はこれからどう生きよう。

 

暗い気持ちでゲロを吐きたいあなたにおすすめ。

 

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

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