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海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』村上春樹訳

村上春樹ノルウェイの森』を読んだ時から、いつか読もうと思っていた。だから、「一ページとしてつまらないページはなかった。」そう刷り込まれて読んだ感想に過ぎない。

 

全てのページを素晴らしく感じる人は、全てのページを一度読んだ人だ。景色の意味、登場人物の繋がり、役割を理解してから読むと、どのページも素晴らしい。そう思える。

 

正直、読み終わるまでは、どの文も深みに溢れていることしか分からなかった。反射する水面に手を差し入れると、冷たい。差し入れるにつれ、手、腕、頭、足が空気の温かみを失う。冷たさの中、深く深く進む。伸ばした指先が底に触れる。それは、気づく瞬間だ。底面の美しさ、光差す水の輝き、青さに。

 

大切なのは結果ではない、それまでの努力だ。たまにそんなことを聞く。僕は、それまで、が何よりも大切だと思う。「今」は「それまで」の結果と努力からなる。「今」に「これから」を乗せるのではなく、「それまで」に「今」を乗せていきたい。

 

多数の「それまで」を持ち、「今」に「これから」を乗せ続ける。それがギャツビーではないか。「それまで」が形を持って現れたとき、「今」を乗せたいと思う。それは、当然のことだ。彼は理に従う。

 

この小説は村上春樹氏の訳であり、村上春樹氏の文章で書かれている。あとがきにもあるように、翻訳の正しさよりも、村上氏の考える「グレート・ギャツビー」が小説家として表現されている。1920年が舞台の小説とは思えない文の読みやすさ、リズムで、読者を引き込む。他者の訳本や原文を読むことで、村上氏の理解を理解することが出来るであろう。

 

 

 

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)