本を紹介し、近代文学・現代文学・海外文学の感想を書きます。雑感も書きます。

海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

山崎ナオコーラ『可愛い世の中』

付き合うことは、自分と相手が違う人ってことを知ることだ、みたいな文を読んで、なるほどなぁと思ったことがある。自分が好きなことが相手も好きとは限らない。それに気づくまで、ちょっと時間がかかる。

 

山崎ナオコーラさんの作品で、表紙がシンプルで、タイトルが目につきやすくて、内容が面白そうだったから買った。金銭感覚のお話、って書いてあった。最近浪費がちな私にムチ打ってくれそうだった。でも、お金を使って失敗したって何か学べれば有意義なお金の使い道だと言えるだろう、みたいな雰囲気を感じてしまって、あんまり金銭感覚にはムチを打たれなかった。そのかわり、他のことを教えられた。自分を持つこと、人に自分を理解しようとしてもらわないこと。

 

ブレるな、自分を持て。なんて話を聞くと難しくて、どの口が言ってるんだ、って思う。自分を持ちすぎる人は周囲から浮く。自分の意思を表明することは、私と貴方とは違うという現実を突きつける。同一性を好みがちな私達は違うものは嫌いになる。でも最近、変わってきている。多様性とか異文化とか、違うものを違うと受け入れること、が出来るようになってきている。だからこそ、自分を持つ、なんてことが出来る。

 

自分を持つときには、自分を持つとは何かを理解しないと、傲慢になる。本を読んでそう思った。

 

人に自分の意見を押し付ける、自分のことを理解してもらう、なんて到底出来たことじゃない。そのことをもっと自分自身が理解した方がいい。人は自分が思わぬところで自分を理解する。こうありたいと言ったって、へーそうなんだ程度にしか思われない。

 

自分を持つことは、意見を通すことでも、相手を否定することでも、思ったことを全て言葉にすることでもない。自分自身に質問したときに、しっかりと答えることだ。自分を持つことは、人に自分の意見を押し付ける時に正義の剣として持つものではない。相手の意見を理解して、自分に問いかけてみる。相手の意見に対して、自分なりの答えを持つ。沢山の答えを積み重ねていくことが、自分を持つことなのだろう。

 

主人公は自分を持っているように見えた。しかし、主人公は、答えを持っていなかった。自分自身の問いかけに対しての答えを。答えがないことは、曖昧でぼんやりとしていて、恐怖だ。物語をなぞっているとき、僕は恐怖していた。もやの中を進む車に乗り込んでしまったようだった。

 

警笛を鳴らしながらもやの中を進むのも、ひと月に一回くらいならまぁいいだろう、と思った。

 

 

可愛い世の中 (講談社文庫)

可愛い世の中 (講談社文庫)