本を紹介し、近代文学・現代文学・海外文学の感想を書きます。雑感も書きます。

海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

アントニオ・タブッキ『遠い水平線』

スピノザは、イベリア系のユダヤ人で、目のなかに、遠い水平線をもっていた。われわれが動くと、水平線も動く。だから、水平線とは、幾何学的な表現だ。私の登場人物も、なにかの魔法で、水平線に到達してくれたことをこころから祈っている。彼もまた、遠い水平線を目のなかにもつ人間だったから。

 

こんな文が帯に載っていたら読まない訳にはいかない。然るべきタイミングでレジに並んだ。

 

スピーノは死体置場の番人をしていた。謎の多い事件によって運ばれた不思議な死体に興味を持ち、各地へ足を運ぶ。というあらすじだ。

 

物語として、最後に大きな山場を迎える小説が多く存在する。ミステリは特にそうである。そういうものは、大抵の場合、ネタバレによって楽しみを大きく損なってしまう。最後の山が平地になってしまうと、もう楽しみはあまり残っていないからだ。

 

いつも思うことは、彼の作品は全文字楽しめるということだ。最初から最後まで。結末だけが小説ではないのだ。彼の作品は、ただずっと面白い。ネタバレをされてもビクともしない程強固な、文自体の面白さがある。

 

この本を読んでいる最中、読者は、山の頂上を目指して斜面を登っていくのではない。読者は、ひたすらに平坦な道を歩く。ただ、道沿いには異国情緒溢れた街並みや、人や、音楽が溢れている。謎に満ちた出来事や言葉から、考え、悟る。全てが平坦な道沿いに詰まっている。

 

 

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)