夏目漱石『それから』
主人公の代助は親から金を貰い働かずに生活をしていた。知識人であった。いつも本を読み、友の翻訳の頼みがあれば相談に乗った。金も時間も自由もあった。意思はなかった。
あらすじを意識せず本文へ入った。この作品は裏表紙、あらすじにある通りの「悲劇」である。坂の上から石が転がっていく様、終端の崖から落ちていく様をありありと見せつけられた。私は読書中、転がり落ちる石だった。
そこには、石だからこそ見える社会があった。働いていない身分は社会に属していない分社会を鳥瞰できる。社会で「まとも」な私たち。主人公は私たちをどこか見下している。彼の考えは正しく「まとも」であるのに、私たちも「まとも」である。本当のまともはどこにあるのだろう。彼は葛藤しない。彼はまともであるから。
自分のまともを突き通すのがこの作品である。主人公にイラつくことも多かったが共感する部分も多かった。仄かに漂う雰囲気を、恋の色を、厳しい時代を感じられた。
夏目漱石前期三部作の真中の作品で、真中から読んでしまったが、解説には前後作の繋がりはあまり無いと書いてあったし、単体で楽しめたので良しとしよう。