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海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

住野よる『君の膵臓をたべたい』

作品名を見たときから気になっていた。あらすじを読んでみた。膵臓、病気、君の膵臓をたべたい。読まなくてもいいかな、と思った。文庫版が発売され、買った、読んだ。読まないと決めた時の僕は、もう10ページ読んで出直してきた方がいい。

 

「肝臓が悪かったら肝臓を食べて、胃が悪かったら胃を食べてって、そうしたら病気が治るって信じられてたらしいよ。だから私は、君の膵臓を食べたい」

 

こんな台詞が読み始めて数ページ目にあるなんて、思いもよらなかった。もっともっと最後にポツンと一言発せられると思っていた。物事が、点同士が線で結ばれるように、繋がっていく様が楽しめた。

 

思わぬ伏線回収はサスペンスのよう。しかししっかりと甘い恋愛は青春小説を感じさせる。

 

闇の中で目隠しと手錠をつけられて、舌だけでアイスを探し回るような小説ではなく、ファミレスのいちごパフェを細長いスプーンで食べるような恋愛小説だった。いちごはちょっと酸っぱかったけれど。

 

 

正直に言うと、売れた理由がよくわかる、分かりやすい小説だった。頭を使わなくても一本道を進んでいけば、出来事が起こるのだ。テーマパークの乗り物のよう。出来事を選んで出てくる当然の気持ちを述べれば、当たり外れなのない感想を言える。友達とも共有しやすい。

 

大きな出来事のある物語は、感想が一点、一種類になってしまいがちである。しかし現実、そんな出来事は人生にあまりない。ノーベル賞は取れないし、蒸気機関は発明出来ない。

 

僕は小さな出来事を積み重ねていく小説が好きだ。より人生らしくて、人間味に溢れてる気がする。

 

でも、こんな経験は僕にはずっと出来ないだろう。小説の中でしか雲は食べれない。人生らしからぬ経験を。

 

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)