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海の中で息をして

近代文学、現代文学、海外文学の感想を書くブログ

村上春樹『風の歌を聴け』

村上春樹氏の処女作。そう聞いたら、知らずに読んだ人は納得するだろう。「確かにこれは処女作だ。」

 

本屋さんに立ち寄り、立ち止まってスマホで検索する。村上春樹 おすすめ。手軽に読めて、かつ確固として文学な小説を読みたい。黄色地に赤色のペンで書かれたポップに唆されて買うと、当たり外れがある。当たりだけを引きたい、外したくない気分だった。その割に検索結果の上の方のレビューを適当に読んで、適当に決めた。いつか読もう、と思っていた本だった。

 

この物語に登場出来る人と、出来ない人がいる。登場出来る人は、ウィットに富んだ、ユーモアの溢れた、深みのある、エスプリの効いた、人だけだ。知識に裏打ちされた会話は機転が利いていて、話してる本人も話されている相手も楽しいだろう。現実でもこれほど面白い人とはなかなか出会えない。

 

多彩な情景描写というよりは、知的に楽しい会話が印象的だった。何か大きなものが残った感じはない。愛とか勇気とか、そういう大きい何かは得られない。もっと微かな、風に吹かれては飛んでしまいそうなものなら、得ようとすれば得られそうだ。

 

村上春樹作品全体がここから始まっているんだ。テンポや描写から実感できる。他の作品を読んだ人は、なるほどな、と感じると思う。僕が今まで読んだものは、確かに村上春樹氏の作品だった。

 

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)